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  • 2013/06/12/Wed 21:37:26
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寄り道

その日、祐巳がその喫茶店に寄り道したのはほんの偶然だった。
K駅のショッピングモールの書店で参考書を見ているうちに朝から
降っていた雨がどしゃ降りになってしまったのだ。
台風は上陸しないと予報で言っていたので油断してしまった。
駅前のロータリーにバス停があるのだが、屋根しかないので横殴りの雨で
ベンチまでビショビショになっているのが駅舎からもわかった。
そこで改札方向に戻り、お茶でも飲んで時間をつぶす事にしたのだ。
薔薇さまになってから特に行動には注意していたが、この状況なら軽い
校則違反も許してもらえるだろう。
(待っても小雨にならなかったら、お父さんに迎えに来てもらおう)
設計事務所の営業時間が過ぎるまでー電話を留守番電話に切り替える六時まで
紅茶を飲みながら、参考書と一緒に買った文庫本を読もうーそんな軽い気持ちだった。
週末で開放感もあった。
その店はさっき書店に行く時に前を通った。
(こんな所に喫茶店あったんだー)と思ったのでどんな店なのか興味もあった。
青い傘は書店の入り口にあった細長いビニール袋に入れたままだったので、そのまま
席まで持っていく事にした。やはり制服だと少し後ろめたいので奥まで進んだ。
観葉植物のパーティションを曲がるとテーブル席には大輪の薔薇が三つ咲いていた。

「蓉子さまっ聖さまっ江利子さまっ」

祐巳は大声で叫んでからあわてて口を手で押さえた。

大学生ともなると図太くなるのか、それともこの三人が元々そうなのか、
慌てず騒がず、揃って微笑を浮かべるとまるで、初めから待ち合わせでも
していたかのように祐巳を迎え入れてくれた。
蓉子さまはとなりの椅子に置いた自分のバッグを膝によけ、祐巳を手招きしてくれた。
江利子さまは「いらっしゃい」と言ってくれた。…そのあと祐巳の後ろに
誰か続く者がいないかと期待に満ちた目を向けられた。
多分由乃さんを探しておられるのだろう。何だかんだ言って孫大好きなおばあちゃんなのだ。
聖さまはウェイトレスに手をつけて挙げて水を持ってくるよう手配してくれた。
…聖さまは誰かを探すような素振りは見せなかった。
(志摩子さんが喫茶店に入るなんて想像もできないんだろうな)

席に着くと祐巳も自然に会話に加わる事ができた。
「お三人は、よくこうやって集まられるんですか?」
(なんて豪勢で、そして少し危険な香りもするミーティングだろう!)

「いや、まったくの偶然だよ?」
「へ?」
「皆、家に帰ろうとしたら本降りになったからここに寄ったのよ」
「びっくりしたわー」
「蓉子なんか私の顔を見るなりまわれ右してそのまま帰ろうとしたよね?」
「身体は正直なのよ」
聞けばお三人ともこの店は初めてなのだそうだ。
(…マジでマリアさまのお導きかも)祐巳は少し身震いした。
(その流れで私も受け入れられたのかあ)

「時に祐巳ちゃん、優先入学に向けての勉強は進んでいる?」
(え?なんでよりによってそんな話題?)
気がつけば祐巳は参考書の入った本屋の袋(プラス文庫本)を胸に抱えていた。
「あーその参考書なら私も持ってるのにい」
成績の良い江利子さまとダブるなら自分の選択が正しかったと、嬉しかった。
「江利子、参考書なんか持ってたの?」
「失礼ねえ、持ってないとなんか不安じゃない。…結局使わなかったけど」
(あれ?)
「授業中で全部理解できちゃうからいつも退屈そうだったよね」
「でもテストでは蓉子に勝てないのよね」
「私はあの先生ならこういう問題出すんじゃないかって予想するのが好きだったから」
「受験勉強なら聖のほうがすごいんじゃない?あの短期間で現役合格でしょう?」
「いや私勉強には真面目だよ?ちゃらんぽらんなのは女性関係だけで」
「そう言えば古文は特に頑張ってたよね。先生、美人だったから」
「授業中も顔ばかり見ていたし」
「失礼な、身体もちゃんと観て いーまーしーたー」
話を聞いていて祐巳は一つだけ理解した。
このお三人は勉強で苦労したことなんかないんだ。
参考書を買っただけで安心しちゃうというのは同じだけれど教科書だけでどこの
大学でも選び放題だった人とは、そもそも出来が違う。
(マリアさま、ありがとうございます)
祐巳は心の中で手を合わせた。
(一緒に買った文庫本は参考書をやり終えてからの楽しみにします)


週が明けて、この偶然の出会いを由乃さんと志摩子さんに報告した。

「どこのお店?」

奇しくも二人から同じ質問が返ってきたが、多分意味は180度違う。
由乃さんはそこを危険地帯と見なして近寄らないようにする為に。
志摩子さんは逆に機会があれば行ってみたい、そう顔に書いてあった。

(二人ともわかりやすいなあ)
祐巳は普段の自分を棚に上げて、そう思った。

そして、残念ながら二人に、その店の正確な情報を伝える事ができなかった。

祐巳自身、店の名前も見ていなかった事に気づいて日曜日にもう一度、その店を
目指したのだが、看板を見つける事さえできなかったからである。
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